黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「わかりました。あなたとの結婚を、受け入れます。だけど……」

 宇和島さんの訝しげな視線が私を射抜く。怯みそうになるが、目を逸らしてはだめだと自分を叱咤した。

「私が条件をつけられる立場にないのはわかっています。ですが、お願いがあります」

 そう切り出した私に、宇和島さんは器用に片方の眉を上げた。

「依都、言葉遣い」

 気楽にしていいと言われても、急には難しい。

「依都に疑念を抱かせたのは俺の責任だからな。惚れた女のおねだりなら、できる限り聞こうか」

 惚れた!?とつい声をあげそうになったが、反応すればからかわれかねないとぐっと堪えた。

 主従関係ではないものの、宇和島さんの方が格上だ。それも見上げなければならないほどの差で、私たちの立場は大きく違う。だから、いろいろと取り繕ったところでなんの意味もない。
 ここはもう、素の自分でぶつかっていくべきだ。

「まずは――」

「まずって、いくつもあるのか。ずいぶん欲張りなんだな」

 笑いながら指摘されてぐっと言葉に詰まる。出だしから躓いたが、ここで引くわけにはいかない。

「宇和島さんと私は――」

「結婚を受け入れた仲で、その他人行儀な呼び方は許容できないな」

 話が進まない!

「うっ……こ、光毅さんと私は」

 満足そうにうなずく彼に、つい恨めしげな視線を向けた。

「お互いのことをよく知りません。なので結婚はするとしても、まずはその、夫婦というより、とも――」

「ああ、恋人関係から始めたいと。まどろっこしいが、依都が望むならかまわない。届だけ先に出して、ゆっくり関係を作っていこうか」

 違う!
 友達から始めたいと主張するはずだったのに、華麗に阻止されてしまう。
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