黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「へえ」

 それまでよりも低い声に、ビクッと肩が跳ねる。お互いの事情を考えた最善の提案だったが、なにか気に障ったのだろうか。

「恋人から始めるという主張とは矛盾するが、まあいい」

 そんな主張をした覚えはない……と言える雰囲気にない。

「依都も心の準備が必要だろうから、寝室についてひとまずは受け入れよう。だが、君の言う意味で、俺は依都の自由を許さない」

 ひとまずとは?と、尋ねる勇気なんてない。そんなことを聞けば、藪蛇になりそうだ。

 私の浮気は許さないと言うが、わざわざ言葉にしなくても大丈夫。もとから恋愛をする予定も気配もない。
 そんな事態にはなり様がなくて胸を張ってうなずくと、胡乱げな視線を返された。

「わかっているのか?」

「もちろんです。私、おとなしくしていますから」

 信じてくれてかまわないというように、大きくうなずいておく。

 とりあえず許されたようだと気を取り直して、次の提案を口にする。

「それから」

「まだあるのか?」

 彼がずいっと顔を近づけてくるから、思わず体をのけ反らせる。
 でもこの場で言いたいことを主張しておかないと、後から話が違うと言われても困る。

「私、完全に家庭に入るつもりはありませんから。結婚後も、仕事とか今後の役に立つことを見つけて挑戦していきたいので」

 遮られる前に一気に言いきったが、彼はどう出るのか。

「かまわない」

「え?」

 即答だ。
 反対されるかもと身構えていたが、すんなり許されて驚いた。
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