黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 糸貫庵の支配人は、ひと言でいえば厳格な人物だ。実直で、曲がったことを嫌う。
 彼は息子夫婦を亡くしていることもあり、孫をなによりも大切にしていた。

 旅館を守っていきたい思いは強いが、このままでは立ちいかなくなる可能性も理解している。跡を継ぐ予定の孫の世代に負債を残すわけにはいかないと、引き際を見極めている様子が見て取れた。

 再開発の話が持ち上がった段階で、支配人は反対の姿勢を示した。もちろん意地やプライドといった感情からではないと、少し話をしただけでも伝わってくる。

 糸貫庵の建物を残すという方針を早々に提示するよりも、支配人と信頼関係を作ってから動きだした方がいい。彼の攻略に失敗すれば、その周辺で店を構える反対派の理解もますます得られなくなっていく。そう判断して、糸貫庵については俺が乗り出すと決めた。



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