黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「ここだ」

 扉を開けて、先に入るように背中に手を添えられる。

「広い……」

 私の知っているホテルは、入ってすぐにベッドが見えるワンルームマンションのような造りだ。

 でもこの部屋は様子が違うと、きょろきょろしながら室内を進む。
 ソファーとテーブルが置かれた、広々としたリビングスペースに「わぁ」と感嘆の声が漏れた。

 それから、窓ガラスの向こうに広がる夜景に惹かれて駆け寄る。
 昼間見た、遊園地の観覧車を見つけた。自分たちが歩いた辺りはどこだろうかと、はしゃいだ気持ちで見渡す。

「気に入ったか」

「もちろん! こんな素敵な部屋を、ありがとう。でも、よく空いていたね」

 旅行を決めたのは、ほんの数日前のこと。今日もたくさんの観光客がいたくらいだ。宿泊施設は、どこも早くから空きがなくなっていたかもしれない。

「まあな。仕事でかかわりがあるホテルだから、多少の融通は利く。だが、さすがにわがままは言えないだろ?」

 なにかを含むような物言いをされて首を傾げる。
 とりあえずその通りだとうなずいておいた。どうやら彼は、ホテル側に少し無理を言ったのかもしれない。

「夫婦で泊まりに行くと伝えただけで、細かいオーダーは出していないんだよな」

 そう言って隣の寝室をチラッと見るから、嫌な予感がした。
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