聖女天使を苦しめた国に、天罰を
『背中から翼を生やせる、化物め……!』

 ――神は人々の優しさを、過信しすぎていたのだ。

 彼は愛し子達に逃げる術を与えるのではなく――ルユメール王国が聖女天使達を独占しないように、彼らの手が及ばぬ他国へ彼女達を誕生させるべきだった。
 だが……。
 そこまで神の考えが及ばなかったせいで、数え切れないほどの同胞は不幸になった。

 恐らくそれは、今もまだ。
 現在進行系で、続いている。

 バズドント伯爵家に産まれた娘のセロンは、今日も薄暗い地下牢の中で1人静かに本を読んで過ごしている。

 少女は背中に翼を自由自在に生やし、癒やしの力を使う聖女天使と呼ばれる存在だった。
 しかし――セロンは監獄と呼ばれる神殿で生涯暮らさずに済んでいる。
 それは娘が死産したと虚偽の報告をしてルユメール王国を欺いた、父親のおかげだ。

(それがよかったかどうかは、疑問が残る……)

 存在しないはずの娘を地下牢に匿っている。
 それを他人には隠し通せても、家族にまでは黙っていられなかったのだろう。

 最愛の妻を失った悲しみに暮れた伯爵は、その隙間をセロンではなく――優しい言葉を投げかけて彼に寄り添う女性で埋めてしまった。

 その結果――。
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