聖女天使を苦しめた国に、天罰を
(ルイザが、お嫁に行ったら……。かあさまの相手をするだけで、済む……?)

 それは彼女にとって、魅力的な誘いだった。

「ようやく、従う気になったかい」

 抵抗を止めたセロンに呆れたような視線を向けた義母は、伯爵家の庭へ義娘を連れ出す。

「わたし、これから……。どこに向かえば……」

 天使は生まれてからこの方、今まで一度も領地の外へ出た経験がなかった。

(星の光を頼りに、無事に目的地まで辿り着ける気がしない……)

 少女は不安で、仕方なかったが――。

「なぁに。地上からではなく、空から向かえばいいのさ」

 義母は遠目からでもすぐにわかる、一際大きな建造物を指差して告げた。
 セロンはこれから、あの場所を目指せばいいらしい。

「両翼をはためかせて目印を頼りに向かえば、迷うはずはないさ」

 義母にそう唆された天使は妹の髪飾りを手に――父親の赦しを得ず、大空へ羽ばたいてしまった。

(ずっと、こうして風を切ってみたかった)

 ずっと夢にまで見ていた感覚に、身体が喜んでいる。

(永遠に夜空を、飛び回れたら……)

 そんな少女の願いも虚しく……。
 セロンはあっという間に、目的地へと到着した。
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