聖女天使を苦しめた国に、天罰を
(ルイザ……。どこ……?)

 ぼろ布一枚を纏って背中に翼を生やした天使はバルコニーに降り立ち、妹の姿を探す。
 キョロキョロと桃色の瞳を忙しなく動かしていると、ある1人の青年と目が合った。

「聖、女……」
「殿下? 聖女天使が、どうかなさったのですか……?」
「ちょっと、ごめん!」

 殿下と呼ばれた男性はそばにいた老紳士にそう断りを入れると、セロンの元へと駆け寄る。

(どうしよう……。わたし、ルイザを探さなくちゃいけないのに……)

 怯えた少女は後退りをして、この場から逃げ出そうとする。
 しかし――。

「待ってくれ……!」
「きゃ……っ」

 青年はセロンを大声で呼び止めると、細い腕を掴んだ。
 その拍子に、天使の手に握りしめられていた髪飾りがカツンッと音を立ててバルコニーの上に転がった。

「ご、ごめん……。どうしても、君と、話がしたくて……」

 その音を耳にして、我に返ったのだろう。
 男性はバツが悪そうに少女から手を離すと、視線をさまよわせた。

(初めて、言われた……)

 召使のようにこき使う義家族、それを見てみぬふりをする父親と暮らしているセロンにとって、年頃の異性から話しかけられるのは初めての経験で――。
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