聖女天使を苦しめた国に、天罰を
(なんだか、胸が……。ドキドキ、する……)

 天使は不思議な感覚に陥りながらも、鈴の音が鳴くような美しい声を響かせた。

「ルイザ・バズドント……」
「それが、君の名前かい?」
「どこ……?」
「僕は、この国の第一王子。フラティウス・べグリーさ」

 緊張してうまく話せなかったセロンは、瞳を潤ませて妹の居場所を問いかける。
 すると、それを聞いた青年は口元を優しく綻ばせて自己紹介をした。

(王子、様……?)

 俗世に疎い天使にも、彼が偉い人だと言う知識くらいはある。

(この人なら、きっと……)

 フラティウスを信頼できる人だと認定したセロンは、バルコニーの上に落ちた髪飾りを拾う。
 その後髪留めに傷がついていないか確認したあと、両手に乗せて差し出した。

「これ。渡さなきゃ……」
「君は、一体……」
「頼まれた、から……」

 天使の拙い主張を聞いて訝しげな視線を向けていた王太子は、ようやく少女の言いたいことを理解したのだろう。
 胸を張った彼は、セロンに優しく笑いかけた。
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