聖女天使を苦しめた国に、天罰を
「聖女天使のあたしがいるのよ!? 他国の野良なんかに、心を奪われないでよ!」
「そもそも君は、本当に聖女天使なのかい?」
「な、何を言っているの? 当たり前でしょ!?」
「その割には、自由自在に翼を出し入れする様子がないし……。空を飛ばないよね」
「そ、それは……っ」

 バズドント伯爵家でルイザと婚約を結んでから、彼女はつねに背中から翼を生やしていた。
 だが、それはよくよく考えてみればおかしいのだ。
 少女達は極力、人と違う部分を見せるのを嫌がっていたのだから……。

「僕は聖女天使が、自由に空を羽ばたかせる姿を見たいんだ」
「な、何よそれ!? ほかの女に心を奪われた次は、あたしの存在を全否定するなんて……! どうかしているとしか、思えないわ!」
「そうだね。僕は、周りがよく見えていなかった……」

 フラティウスがどこか遠くを見つめながら告げれば、彼女はこれ以上婚約者の説得を試みたところで無駄だと考え直したようだ。

「あたしは絶対、婚約破棄なんてしないから!」

 ルイザはそう捨て台詞を残すと、フラティウスの前から姿を消した。

(やっとうるさいのが、いなくなった……)

 ほっと一息つき、即座に椅子から立ち上がる。
 その後、足早に部屋を出る。

(手紙の返事が、ないのなら……)

 瞳の奥底にある決意を携えた王太子は、国境に向けて歩き出した。

 :

「我が名はフラティウス! ルユメール王国の王太子だ! クロディオ! 一目でいい! 聖女天使に、会わせてくれ!」

 パロニード辺境伯領と自国を隔てる国境のど真ん中で、フラティウスは勢いよく叫び声を上げた。
 自国の兵士達にすらも許可を得ずに行われた蛮行は、双方の騎士達を慌てさせる。

「で、殿下……!?」
「お、おやめください! 残忍酷薄な辺境伯を刺激すれば、こちらにも多大なる被害が及びます!」

 自国の兵士達は不敬と知りながらも、数人がかりで彼を止めようと必死になり――。

「今すぐ団長に、報告しろ! 王太子が騒いでいると!」
「しかし……。彼の願いを聞き届ける必要など、ないのでは……?」
「それは辺境伯がお決めになることだ!」

 いつ何が起きてもいいように控えていた辺境伯騎士団は声を荒らげ、戸惑う部下をせっつく。

「離せ……! 僕は聖女天使に会うまで、ここを一歩も動かないからな……!」

 フラティウスは自らの身体を引き摺り、王城の中へと押し戻そうとする兵士達へ必死に抵抗しながら声を大にして叫び続けた。
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