聖女天使を苦しめた国に、天罰を
「心優しき天使が、それほど怒りを感じる程に……。ルユメール王国の行いが酷いという話だろう。セロンのいだく感情は、当然だ」
「本当?」
「ああ。長い間、聖女天使を独占し――虐げてきたのだ。見て見ぬふりをしてきた人間達も同罪だと思うのは、無理もない」

 しかし、彼はペガサスのようにセロンの考えを間違っているとは言わなかった。
 クロディオは天使の思考を容認すると、己も同じ気持ちだと伝えてから優しく口元を綻ばせた。

「俺達が恨みをいだく人間だけに、牙を向けるのか。ルユメール王国で暮らす人々をすべて蹴散らすかは、目的を達成したあとに決めればいい」
「ん……。クロディオが、そういうなら……。この話は、終わり」
「たまには、領地内の様子を見てから帰るか」
「いいの?」
「ああ。どこか、行きたいところは?」

 彼に問いかけられた天使に、思い浮かぶ場所など存在しない。
 セロンが足を踏み入れたことのある場所は、果実園と露天商だけなのだから。

「クロディオと一緒なら、どこでも嬉しい」
「君は、本当に……」

 愛する天使の言葉を耳にした彼は、感極まった様子でクシャリと目元を緩めた。
 その瞳は今にも泣き出しそうなほどに歪められている。
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