聖女天使を苦しめた国に、天罰を
「へ!? 本当だ!」
「誰か、画家を呼んでこい!」
「10年ぶりに、辺境伯が人前で口元を緩めたぞ!」

 ――それから露天商は、大騒ぎになった。
 どこからともなく領内で有名な絵描き達が名を連ね、微笑みを浮かべた彼の姿絵を描きたいと口にし……。

「セロンも一緒に、描いてやってくれ」
「聖女天使様も、ですか? ぜひ!」

 画家が用意した木製の椅子に座った彼は、背中に翼を生やした天使を乗せ、絵のモデルになることを了承。

 その間に果実をカゴいっぱいに持ってきた農家や、大きなビジネスチャンスを逃すわけにはいかないとばかりに営業をかけてくる露天商の人々と会話をしながら。
 姿絵の下書きが終わったのを確認した2人は、ようやく領城に帰還した――。

「今日、1日。すごく、楽しかったね」
「そうだな」
「あの人が大騒ぎしていなかったら。もっと、幸せだった……」
「ああ」

 仮眠室の寝台に2人並んで寄り添ったセロンは、今にも眠ってしまいそうなほどにうとうとと船を漕ぎながら、そうポツリと呟いた。
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