聖女天使を苦しめた国に、天罰を
(唇じゃ、ないの……?)

 セロンはどこか不安そうに瞳を潤ませ、それをじっと見つめていたが――。
 クロディオはセロンの手から指先を離すと、愛しき天使を再び抱きしめた。

「この先は、すべてが終わったあとまで取っておこう」
「ご褒美……?」
「そうだ。想いを通じ合わせて浮かれた結果。相手に遅れをとっては、困るからな……」

 クロディオが戦場で誰かに命を奪われる姿など、考えたくもない。
 彼がセロンの加護を頼りにかなり無茶をするタイプなのは、今までの戦闘を見ている限りでは明らかだったからだ。

(油断、禁物……)

 天使は心の中で何度も自分に言い聞かせながらしっかりと頷き、最悪の未来が訪れないようにクロディオの主張を受け入れた。

「幸せの絶頂、危険。よく、わかった」
「ああ」
「また、こうして……。おやすみ、できるの。楽しみ」
「そうだな」

 幸福でいっぱいに満たされたセロンは、眠気からは逃れず――うとうとと船を漕ぎながら、ポツリと呟く。

「クロディオ。わたしを見つけてくれて、ありがとう……」
「ああ。こちらこそ……」

 こうして感謝を伝え合ったセロンは彼の胸元に顔を埋め、ゆっくりと目を閉じた。
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