聖女天使を苦しめた国に、天罰を
(伯爵家に戻っても、いいことなんて、何もない……。このまま、同胞と一緒に、神殿で暮らしたほうが……)

 夜空の下で翼をはためかせて浮遊するセロンは月夜に照らされながら、長い間逡巡する。しかし――。
 最終的にはバズドント伯爵家へ、戻る選択肢を選び取った。

(衣食住、しっかり。安全に暮らせる。その保証がない限り、あそこにいたほうが……。きっと……)

 行き倒れて命を落とすよりは、義家族から虐げられるほうがいいと考えたからだ。

(あの人……。迎えに来てくれるって。わたしの婚約者だって、言った……)

 いつか再び、彼と巡り会える日を信じて。

(もし、再会できたら……。わたしはあの人と、結婚する……)

 期待に胸を膨らませながら頬を赤らめた天使は、こうして素直に伯爵家へ戻った。
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