聖女天使を苦しめた国に、天罰を
(あの時。あそこで出会ったのは、わたしだって。あの人が、見つけてくれたら……)

 ――この地獄のような苦しみの中から、彼が助け出してくれるのではないかと。

「あたしが殿下のハートを射止める姿を、物陰に隠れてこっそり見てなさい!」

 妹は姉にそう命じると、背中に不格好な偽物の翼を背負って地下室を出て行った。

(わたしも、行かなくちゃ……)

 このあとに訪れる悲劇を知りもしない姉は、ルイザの言いつけ通り物陰に隠れて2人の姿を観察する。
 そして――。

「ようこそ。我がバズドント伯爵家へ」
「やぁ。さっそくだけど、ルイザ伯爵令嬢を……」
「フラティウス殿下!」

 ――ありえない悲劇を目の前に、絶望した。

「ああ……会いたかった。僕だけの、聖女天使……」

 妹が王太子の名前を呼んだ瞬間。
 彼はあの時言葉を交わした聖女天使との再会を喜び、瞳から大粒の涙を流す。

(なんで……?)

 セロンは信じられない気持ちでいっぱいだった。

(あの人と言葉を交わしたのは、わたしだったのに……)

 瞳から大粒の涙を流すほどに会いたがっていた女性の外見を、見間違える王太子が。
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