聖女天使を苦しめた国に、天罰を
(ああして、慈しむような視線を向けられるのも)

 聖女天使と嘘をついてまで、彼を籠絡しようと目論む妹が。

(触れ合う権利だって……)

 たった一度。
 数分だけ言葉を交わした異性に――己が考えていたよりも、依存していた自分に。

(全部、わたしのものだった……)

 2人の姿を物陰から見守っていたセロンが、心の中で納得できない気持ちと戦っているなど知りもせず。
 フラティウスはルイザに対して愛を囁く。

「好きだ。僕の愛しい婚約者。約束通り、迎えに来たよ」
「フラティウス様……」
「妻になってくれるね?」
「ええ。もちろん。あたしも、愛しているわ。殿下……」

 2人は情熱的な口づけを交わし合い、互いの首元に両腕を絡めた。

(許さない……)

 その様子をじっと観察していたセロンの瞳からは、光が薄れた。

(殿下は、わたしと婚約を結んだはずだったのに……)

 仄暗い感情を空色の目の奥に宿した少女は、怒りや憎しみの感情に全身が支配されていくのを感じる。
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