聖女天使を苦しめた国に、天罰を
3・辺境伯と天使
「君の過去は、こちらで調べさせてもった」

 パロニード辺境伯家のクロディオから低い声でそう告げられたセロンは、ゴシゴシと目を擦って見慣れない男性の姿を認識する。

(辺境伯って、なんだっけ……?)

 少女にとって彼の第一印象は、どれほど窮地に追い込まれても戦場で剣を振い続ける剣士だ。
 それ以上でもそれ以下でもない。
 だから、目の前の人物がそう呼ばれていることにいまいち納得が出来ないまま、思考を繰り返す。

(貴族、なのは……。わかる、けど……。それがどのくらい偉いかは、不明……)

 セロンは自身の知識の無さを痛感しながら、目線を合わせるためだろうか?
 体勢を低くしたクロディオを見上げ、ぼんやりと生気の籠らぬ桃色の瞳を向けた。

「君に同情する気はない」

 天使の意識が夢の世界から現実に戻って来たと、確証を得たのだろう。
 辺境伯はそう吐き捨て、セロンに厳しい声をかけた。

「俺に利益を齎せないのであれば、すぐに出て行ってもらう」

 生きるか死ぬか気抜けない戦地と、ある程度羽目を外せる領城であれば、後者のほうが安心できる環境のはずなのに――。
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