聖女天使を苦しめた国に、天罰を
 セロンの発する声音はいつだってたどたどしく、自信がなさげに聞こえる。
 口を閉じている時のほうが珍しい侍女と一緒にいれば、幼子のような少女も年相応にハキハキと話せるようになると判断したようだ。

(ルセメルと、一緒……。勉強に、なるかな……)

 セロンはどうにも彼の主張に納得ができず、不思議そうに首を傾げながら告げた。

「これ……訓練?」
「そうだ」
「耐えられないって、言ったら……?」
「この程度で音を上げるようでは、ここには居られんぞ」

 その言葉が何を意味するのか。
 セロンはわからないほど、子どもではなかった。

(ほんとに……。血も涙も、ない人だ……)

 着の身着のままで伯爵家を飛び出してきた少女は、辺境伯を出れば明日をも知れない命だ。
 自力で金銭を稼げぬ限り――。
 誰かに飼われるか。
 聖女天使として捕らえられるか。
 野垂れ死ぬか。

 天使の脳裏に思い浮かぶのは、そのどれもが選び取りたくないと拒絶するような最悪の未来ばかりだった。

(それに比べたら。この人と一緒にいるほうが、安全だとは……思うけど……)

 少しでも気に食わない言動を口にすれば、今すぐ追い出すと言わんばかりにこちらを睨みつけてくるような男性だ。
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