聖女天使を苦しめた国に、天罰を
「やった」

 彼女は無表情のまま嬉しそうな声音で言葉を紡ぐと、繋いだ指先に力を込めて握り返す。
 その後、背中の翼を消失させた。

(聖女天使の羽は、自由自在に出し入れができるのか……)

 クロディオは物珍しそうな視線を、彼女に向ける。

(たとえどれほど神聖なる存在だと崇められていたとしても、所詮は背中から翼を生やし、聖なる力が使えるだけの少女か……)

 辺境伯は天使が普通の人間となんら代わりのないか弱き存在だと認識し、心の中で彼女に対する庇護欲が芽吹くのを感じる。

(俺が、守らなければ……)

 残忍酷薄な辺境伯と呼ばれる彼はたとえ女子どもが目の前で酷い目に遭っていようが、気分が乗らなければ見殺しにするような人間だった。

(美しい声と可憐な容姿に、惑わされている場合ではない)

 脳裏に過った自分のものとは思えぬ思考を打ち消し、固い表情で天使を見下す。
 その後――重たい口を開く。
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