聖女天使を苦しめた国に、天罰を
「俺の名は、クロディオ。年齢は20。パロニード辺境伯の当主だ」
「わたし、セロン。多分……18歳、くらい。これから、よろしく」

 彼女は家名を名乗らぬまま、自らの年齢さえも正しく認識できているか怪しいと言わんばかりのおっとりとした口ぶりとともに、真顔で挨拶をした。

(首が痛いな……)

 その様子をじっと観察していたクロディオは、2人の身長差が40cm近いせいか。
 彼女と目を合わせると、身を屈めるか見下すしかないと気づく。

(手を繋いだのは、失敗だった。身体に負担がかかる……)

 表情筋が死んでいるセロンの一投足をいちいち首を痛めてまで確認するのは面倒だ。
 クロディオは彼女の手を離し、天使を軽々と抱き上げた。

「このほうが、歩きやすい」
「わたしも、楽ちん……」

 セロンは一瞬驚きで、目を見開いたが……。
 彼に身体を預けていれば、すぐさま自分の脚で歩かなくて済むと考え直したのだろう。
 彼女は気持ちよさそうにゆっくりと目を瞑った。

(まるで、猫のようだな……)

 自らの腕の中で身を丸めて眠る天使の姿を目にした辺境伯は、セロンが野良猫に見えて仕方がない。
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