聖女天使を苦しめた国に、天罰を
「それが当たり前になったら、自国に戻った時、耐えられない……」
「君はあの国に、戻る気があるのか」
「うんん。でも、連れ戻されるかも……」
「俺がそんなことを、許すとでも?」

 もしもの可能性に憂いた少女の姿を間近にした彼は、先程までの優しく瞳を和らげたからは想像もつかないほどに硬い表情で凄む。

(怒って、る……?)

 感情の起伏が思ったよりも激しい辺境伯の姿に戸惑いながら、セロンは彼の主張に耳を傾けた。

「君は願った。そばにいたいと」
「ん……」
「何があっても、この手を離すつもりはない」

 クロディオの大きな手が、天使の細い指先を包み込む。
 そこからじんわりと伝わる熱を感じ、セロンはうっとりと瞳を潤ませた。

「俺は……」
「お待たせいたしましたー!」

 彼は何かを言いかけたが、すぐさま言葉を止める。
 夕飯の乗ったティートローリーを片手に、ルセメルが満面の笑みを浮かべたからだ。

「まさか食事も、ここに座ったまま取るなど言わないだろうな」

 視線で射殺さんばかりに睨みつけられてしまえば、「はいそうです」など言えるわけがない。
 セロンは渋々本を床に置いて、キョロキョロとあたりを見渡す。
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