聖女天使を苦しめた国に、天罰を
2・天使の事情(過去編)
 ――15年前。

 母親の命と引き換えにバズドント伯爵家に産まれたセロンの背中には、美しい純白の翼が生えていた。

「せ、聖女天使が! 神殿に連絡を……!」

 産声を上げた赤子の異変を目の当たりにした医者は、すぐさま然るべき場所へ報告を上げようとした。
 しかし――セロンの父親は、それを許さなかった。

「何もするな!」
「し、しかし……!」
「妻だけではなく、娘まで奪われるなど……! 私には耐えられん……!」

 愛する妻を失った絶望と、彼女と引き換えに産まれた娘に対する怒り。
 それをどうしようもできなかった彼は赤子を抱き上げ、怒声を響かせた。

「ああ……。セロン……。私の娘……。君は永遠に、私のものだ……!」

 瞳から大粒の涙を流した伯爵は、こうして狂気に染まり――ルユメール王国の掟に背く、重罪人となった。

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