聖女天使を苦しめた国に、天罰を
「なぜ逃げた」

 辺境伯から強い口調で凄まれた天使は、悲しそうに眉を伏せる。
 瞳をかち合わせたままでは、その恐ろしさに震え上がって泣いてしまうかもしれないと怯えたからだ。
 セロンは何度か鼻を啜って涙を流さないように耐えながら、ぽつりと言葉を吐き出した。

「わたし、逃げてない」
「俺が嫌で、出ていったんだろう」
「違う」
「嘘をつかなくていい」
「どうして、聞いてくれないの」

 自分の考えを拒絶されるなど思いもしなかった。
 桃色の瞳には、じんわりと涙が滲む。

(このままじゃ、事実を受け入れてもらえない……)

 苦しそうに唇を噛み締めて透明な雫が溢れ落ちるのをぐっと堪えたセロンは、再びそう感じた理由の補足説明を行う。

「わたし、ペガサスに呼ばれた……。迎えに行っただけ……」
「農園の果実をもぎ取り、街へ散策に繰り出したくらいだ。俺に一言断る時間はあったはずだろう」
「許してもらえないと、思った……」
「なぜ、俺を信じられないんだ」

 彼は呆れてものもいえないとばかりに、セロンの腰元に回した腕に力を込めた。

(押し潰されそう……)

 小さな身体をきつく抱きしめられた天使は、圧迫感に眉を顰める。
 彼の胸元を握りしめる力を強め、苦しそうに自らいだいた気持ちを吐露した。
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