甘えたがりのランチタイム
「じゃあ裕翔はなんて言って欲しいの? 私の言い訳を聞きたいんじゃないの?」

 女性は悪びれる様子もなく、眉間に皺を寄せてため息をつくと、肘をついて手のひらに頬をのせた。

「言い訳って……!」
「あぁもう面倒くさいなぁ。私、裕翔のことは好きだけど、二番目に好きなんだよねぇ。だって裕翔は浮気なんだもん」
「えっ……浮気……?」

 裕翔が下を向いたため表情まではわからなかったが、相当ショックを受けているに違いない。

 もし自分が同じことを言われたら、悲しくて仕方ないものーー茉莉花は裕翔の気持ちが手に取るようにわかり悲しくなった。

「そう。ホテルに一緒に入ったのが彼氏。彼が忙しくてなかなか会えないから、暇な時に付き合ってくれる人が欲しかったんだよねぇ」
「だ、だって……合コンの時は彼氏はいないって……」
「あのねぇ、そんなこと、はっきり言うわけないじゃない。まぁそんな裕翔だから簡単に騙せたのかもしれないけど」

 どうしてそこまではっきり言えるのだろう。自分の言葉が彼を傷つけたという意識はないのだろうかーー。

「裕翔って優しいし、すぐに私の言うこと聞いてくれるし、一緒にいてすごく楽だったんだけどなぁ。残念。で、どうする? このまま関係を続けてもいいけど」

 女性がそう言ってのけたので、再び衝撃を受けた茉莉花はつい勢いよく振り向いてしまう。だがその行動のせいで、向かい合って座っていたはずの裕翔と女性が、何事かとこちらを見たのだ。

 裕翔が目を大きく見開いてこちらを見ていた。明らかに目が合ったが、茉莉花は慌ててメニュー表に視線を戻す。

 風見くん、私に気付いたかな……。それよりも、この人は風見くんを騙していたのに、まだ関係を続けようとしているの? だって風見くん、彼女にご飯を作ってあげたいって言って料理教室に通い始めたんだよ。それって酷すぎるーーどこか自分と重なるように思えて、胸が苦しくなっていく。

 誰かのために料理を作る。ただの自己満足なのかもしれない。でもこれは自分なりの愛情表現の一つで、それを受け止めて欲しいと思うのはエゴだとわかっている。

 だけど好きだから、相手のために何かをしてあげたいし、同じくらいの見返りが欲しいと期待してしまうのだ。

「俺は……気持ちの一方通行は嫌なんだ。ちゃんと恋人同士になれないなら、もう未歩(みほ)ちゃんとは会わないよ」
「あっそ。わかった。じゃあもう連絡しないし、してこないでね。バイバイ」

 未歩と呼ばれた女性は席を立つと、裕翔の顔も見ずに茉莉花の方に向かって歩いてくる。

 緊張で体が硬直するが、未歩は茉莉花を気にすることなく店を出て行った。
< 10 / 29 >

この作品をシェア

pagetop