甘えたがりのランチタイム
 彼女に何も言われなかったことにホッとしつつ、裕翔のことが気になって、ゆっくりと視線だけ動かした茉莉花は思わず目を見開いた。

 なんと真横に裕翔が立っていたのだ。困ったように笑っていたが、赤くなった目元を見れば、それが作り笑いであることがわかる。

「あっ、あれっ、風見くんもいたの? たまたま外食して帰ろうかなって思って……」
「気を遣わなくても大丈夫だよ。さっき目が合ったの知ってるから」

 気付かれていたと知り、自分のしたことに恥ずかしさを覚える。

「ごめんなさい……覗きみたいなことしちゃって……」

 茉莉花が頭を下げると、裕翔は悲しそうに笑いながら首を横に振った。

「誰だってあんな話しが耳に入ったら気になるよ。しかも知り合いなら尚のことね」

 否定しようとして、口をぎゅっと閉ざした。いくら違うと言っても、聞いていたことは事実。何を言っても言い訳にしかならない気がしたのだ。

 茉莉花は何やら意を決したように頷くと、彼の顔を見上げてじっと見つめる。

「風見くん、ご飯って食べた?」
「えっ……いや、まだだけど」
「じゃあ一緒に作らない? 私、お腹ぺこぺこなの!」

 このまま食べて帰れば楽だが、裕翔をそのままにはしておけなかった。彼をこの場から移動させてあげたかったし、何より料理をして気分転換をさせてあげたいと思ったのだ。

 裕翔はキョトンとした顔で茉莉花を見つめると、不思議そうに首を傾げる。

「……どこで作るの?」
「……うち、とか?」
「でも彼氏さん、いるよね? あまり良くないんじゃないかな」

 確かに飲みに行くとは言ってたが、何時に帰るかはわからない。もし帰ってきて誤解されたら、今より悪い状況になるのは目に見えている。

 茉莉花が眉間に皺を寄せながら口をつぐむと、裕翔が下を向いた。

「じゃあ俺の家はどうかな? 実は……週末に彼女に作ってあげようと思って、食材を買い込んでいたんだよね。あの量、一人じゃ消費しきれないし」

 胸がツキンと痛むのを感じるのは、自分も同じだからーー正樹に食べてもらえなかった夕食は、茉莉花の悲しみとともにお弁当に姿を変え、胃の中に消えていく。裕翔が彼女のために買った食材は、彼が調理して食べるしかない。

「じゃあ行こうか」

 彼女への悲しい気持ちを少しでも緩和してあげたい。それに料理をしていればきっと気も紛れるはずーーそう思いながら茉莉花は頷くと、裕翔の隣を歩き始めた。
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