甘えたがりのランチタイム
* * * *

 裕翔の部屋を訪れた茉莉花は、思わず感嘆の声を漏らした。青が貴重の1LDKの部屋の中には、水族館で買ったらしいペンギンやクラゲのグッズが、所々に置かれていたのだ。

「もしかして風見くん、水族館とかよく行くの?」
「あはは。バレたか。実は年パス持ってるくらいの水族館好きなんだよね」

 照れ笑いをする裕翔を見て、茉莉花の心臓が早鐘のように打ち始める。

「わ、私も好きで年パス持ってるよ!」
「本当? 何が好きなの?」
「一番ペンギンが好きかな」
「ってことは、すみだ水族館?」
「正解! よくわかったね」
「あそこのペンギンの相関図、一日中見てても飽きないから」
「わかる! 私も相関図が書いてあるクリアファイルを眺めていると、ニヤニヤしちゃうんだ」
「あはは! 西園さん、あれ買ったんだ」

 茉莉花は驚いたように目を見開いた。こんな会話が出来たのは、もしかしたら初めての経験かもしれない。

「一日中いたことある?」
「一日中はさすがにないけど、半日くらい滞在したことはあるよ。人にはなかなか言えないけどね」

 苦笑した彼を見た瞬間、自分の中に燻る同じ感情を思い出され出す。

 言っても通じないし、変わった人だと思われる。それが嫌で自分の趣味を隠すようになったのだ。

「彼氏とは水族館に行ったりするの?」

 突然声をかけられ、思わず体がビクッと震える。

「あの……彼はあまり興味がないみたいで……。隣でつまらなさそうにされると、なんか心苦しいというか……。私の趣味に合わせてもらってる気がして、思う存分楽しめないんだよね。それなら一人で行った方が楽しいし、気持ちも楽というか」

 裕翔が作り置きしていたという、特製のタレに漬け込んだ豚のロース肉を彼が焼き、さらにサイドの品を茉莉花作っていく。

 油が爆ぜる音と、鍋の湯が茹だる音、そして換気扇が静かに空気を吸い込む音が重なり、茉莉花の耳に心地よく届いた。
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