甘えたがりのランチタイム
 部屋に入った裕翔は、口を大きく開けて目をキラキラと輝かせた。

「すごい、水族館グッズだらけだ!」

 正樹がいた頃はしまいこんでいたグッズを、この際だからと全て出すことにした。そのため部屋には、全国の水族館で買い集めたぬいぐるみやアクリルスタンド、ポストカードでいっぱいになっていたのだ。

「ちょっ、こ、これって、深海魚水族館オリジナルのアクスタじゃない! 全種類揃ってる……」

 裕翔は棚の上に置いてあった、沼津港にある深海水族館限定のガチャの景品であるアクスタを、羨望の眼差しで見つめる。

「俺も頑張ったんだけど、どうしてもメンダコだけが出なくてさ。いいなぁ、羨ましい」
「あはは、そんなところに気付くの、風見くんくらいだよ」

 茉莉花はクスクス笑いながらも、嬉しい気持ちになっていく。茉莉花自身もシーラカンスが出るまで粘ってやり続けたのだ。

「このグッズね、ずっとしまい込んでたんだ。彼が転がり込んできて、部屋にいろいろ置くようになったら、私のものを置くスペースがなくなっちゃって」

 テーブルの上にエコバッグの中から取り出したフードコンテナを並べていく。鼻先を掠める美味しそうな匂いと、手のひらに伝わる温もりが、心を温かく包み込んでくれるようだった。

「風見くんがせっかく作ってくれたし、お皿に並べようか。そうすれば、すぐに洗って返せるし」
「それなら、後で洗い物を手伝うよ」
「あ、ありがとう……」

 正樹と暮らしている時は、作るのも洗い物をするのも茉莉花の役割だったから、裕翔の発言に思わず戸惑ってしまう。

 しかし裕翔はそれが当たり前とでも言うように、笑顔を浮かべていた。

「じゃあお皿くれる? 一応一人前ずつ分かれているから、大きいお皿がニ枚あれば大丈夫」

 茉莉花は頷くと、食器棚から大きめのお皿を二枚取り出して裕翔に手渡す。茶碗やマグカップ、箸のようなお揃いで買ったものは正樹が持っていったが、元々茉莉花の部屋にあった食器はそのままの状態で残されていた。

「ありがとう」
「こちらこそ、わざわざ作ってきてくれてありがとう」

 裕翔がフードコンテナの蓋を開けると、鮭のムニエル、キャベツときのこのバター醤油炒め、ベビーリーフのサラダ、キャロットラペがぎっしりと詰め込まれていた。

「美味しそう……! 昨日もお弁当作ってもらっちゃったのに、二日も続けてご馳走になっちゃっていいの?」

 茉莉花が申し訳なさそうに伝えたが、裕翔は少し考えてから口を開いた。
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