甘えたがりのランチタイム
6 甘えたがりなペンギン
正樹との別れから三ヶ月が過ぎ、気候も少しだけ秋めいてきた。
あのことをきっかけに、茉莉花と裕翔は毎週火曜日は互いに弁当を作り合い、交換して一緒に食べるようになった。
金曜日には千佳子先生の料理教室があり、二人でいる機会が増えた。そのため二人の仲は深まったが、まだ二人きりで出かけることは出来ずにいた。
友だちなんだから一緒に出かけるくらいはすると羽美は言うけど、茉莉花は彼を誘う勇気が出ずにいた。
パソコンと向き合っているのに手が動かないのは、いろいろなことを考え過ぎて、頭の中が混乱しているからだとわかっている。
その時頭にあたたかな手が載せられ、すぐに裕翔だと気付き、思わず胸がキュンとときめく。
「西園さん、終わった?」
振り返ると、帰る準備をした裕翔が笑顔を浮かべて立っていた。
「あっ、うん、終わってるよ。すぐに準備するね」
どうせ同じ会社に勤めているわけだし、せっかくだし一緒に行こうと裕翔に提案され、千佳子先生の料理教室がある日は、二人でこうして待ち合わせをして行くようになったのだ。
「なんか今日はいつもより来るのが早いからびっくりしちゃった」
「あっ、ごめん。ちょうどタイミング良く仕事が終わったから。出直した方がいいかな?」
「ううん、大丈夫だよ」
実は先週の料理教室の中で、千佳子先生が話してくれた言葉が茉莉花の心にずっと引っかかっていた。
『人って不思議なもので、自分にないものを持っている人が魅力的に見えてしまったりするのよね。でもそれは一時の感情だと思うの。長い目で見た時に、自分が思い描く未来の姿とその人が合うかどうか、一度立ち止まって考えてみるのもいいんじゃないかしら。それでも気持ちがブレなければその人が運命の人だし、違和感を覚えたら、自分が求めている人ではないってこと。少しくらい立ち止まって考えたって、人生長いんだから、決して遅くはないのよ』
茉莉花と裕翔が恋人と別れたことを知っている千佳子先生が、二人の背中を押そうとしてくれているように感じる。
その時は笑って誤魔化したが、心の中を見透かされているような気分になり、裕翔の顔を見ることが出来なかった。
彼はもう元彼女のことは吹っ切れたのだろうかーー自分自身は正樹のことを思い出すことはなくなり、代わりに頭の中を占めているのは裕翔のことばかり。
裕翔への気持ちを自覚し始めているのに、今の関係を壊してしまうのが怖くて、認めることを躊躇っていた。
「お待たせ。じゃあ行こっか」
「そうだね」
茉莉花はカバンの中に荷物をしまうと、立ち上がって裕翔の顔を見る。優しい笑顔に胸がキュンとする。
やはり彼の隣は居心地がいい。この関係がなくなるくらいなら、友だちでいたいと願ってしまう自分がいた。
あのことをきっかけに、茉莉花と裕翔は毎週火曜日は互いに弁当を作り合い、交換して一緒に食べるようになった。
金曜日には千佳子先生の料理教室があり、二人でいる機会が増えた。そのため二人の仲は深まったが、まだ二人きりで出かけることは出来ずにいた。
友だちなんだから一緒に出かけるくらいはすると羽美は言うけど、茉莉花は彼を誘う勇気が出ずにいた。
パソコンと向き合っているのに手が動かないのは、いろいろなことを考え過ぎて、頭の中が混乱しているからだとわかっている。
その時頭にあたたかな手が載せられ、すぐに裕翔だと気付き、思わず胸がキュンとときめく。
「西園さん、終わった?」
振り返ると、帰る準備をした裕翔が笑顔を浮かべて立っていた。
「あっ、うん、終わってるよ。すぐに準備するね」
どうせ同じ会社に勤めているわけだし、せっかくだし一緒に行こうと裕翔に提案され、千佳子先生の料理教室がある日は、二人でこうして待ち合わせをして行くようになったのだ。
「なんか今日はいつもより来るのが早いからびっくりしちゃった」
「あっ、ごめん。ちょうどタイミング良く仕事が終わったから。出直した方がいいかな?」
「ううん、大丈夫だよ」
実は先週の料理教室の中で、千佳子先生が話してくれた言葉が茉莉花の心にずっと引っかかっていた。
『人って不思議なもので、自分にないものを持っている人が魅力的に見えてしまったりするのよね。でもそれは一時の感情だと思うの。長い目で見た時に、自分が思い描く未来の姿とその人が合うかどうか、一度立ち止まって考えてみるのもいいんじゃないかしら。それでも気持ちがブレなければその人が運命の人だし、違和感を覚えたら、自分が求めている人ではないってこと。少しくらい立ち止まって考えたって、人生長いんだから、決して遅くはないのよ』
茉莉花と裕翔が恋人と別れたことを知っている千佳子先生が、二人の背中を押そうとしてくれているように感じる。
その時は笑って誤魔化したが、心の中を見透かされているような気分になり、裕翔の顔を見ることが出来なかった。
彼はもう元彼女のことは吹っ切れたのだろうかーー自分自身は正樹のことを思い出すことはなくなり、代わりに頭の中を占めているのは裕翔のことばかり。
裕翔への気持ちを自覚し始めているのに、今の関係を壊してしまうのが怖くて、認めることを躊躇っていた。
「お待たせ。じゃあ行こっか」
「そうだね」
茉莉花はカバンの中に荷物をしまうと、立ち上がって裕翔の顔を見る。優しい笑顔に胸がキュンとする。
やはり彼の隣は居心地がいい。この関係がなくなるくらいなら、友だちでいたいと願ってしまう自分がいた。