甘えたがりのランチタイム
* * * *
電車を降り、千佳子先生のマンションに向かおうとしたところで、突然裕翔に手を掴まれた。
「どうしたの?」
「やっぱり千佳子先生のところに行くにはまだ早いかなって思って。そこのベンチで時間潰していかない?」
裕翔は千佳子先生のマンションの隣にある、小さな公園を指差した。遊具が滑り台とブランコと砂場しかない公園だが、ベンチはたくさんあるため、昼夜問わず大人の利用者が多い。
腕時計を見ると、料理教室開始の時間まで四十分ある。確かに今行っては、千佳子先生も困るに違いない。
茉莉花は頷くと、二人は公園に向かって歩いて行く。園内の一番奥のベンチに腰を下ろした裕翔の隣に、茉莉花も静かに座った。
周りを見渡せば、向かい側に中年の男性が座っている以外、人の姿はない。
その時だった。裕翔が突然茉莉花に向かって頭を下げたのだ。
「西園さん、ごめん!」
「えっ、何が?」
戸惑いを隠せない茉莉花を、裕翔は真っ直ぐに見つめる。
「実は西園さんと二人きりで話したくて、わざと会社を早く出たんだ」
「話って……?」
緊張で喉がカラカラになっていく。良い話か悪い話か予想が出来ず、茉莉花の心臓が早鐘のように打ち始める。
「先週の千佳子先生の言葉って覚えてる? 俺、あれからずっとあの言葉について考えてたんだ」
「うん、もちろん覚えてる。私も考えていたから……」
「俺ね、元彼女の時は、自分にないキラキラ感に惹かれたんだよね。でもよく考えてみたら、この先一生キラキラはちょっと疲れるかなって。それよりも、好きなことを共有出来る方がいいなって思ったんだ」
「私自身も元彼の積極性に惹かれたから、ちょっとわかる。でも別れる時、風見くんと同じことを言ってた。好きなことを共通したいって……。」
正樹に最後の日に言われた言葉の意味が、今ならよくわかる気がしていた。
あのまま正樹と一緒にいたら、いつか茉莉花の中の不満がや不安が爆発していただろう。好きという気持ちだけで共に歩いて行くことは出来ないのだと気付いた。
電車を降り、千佳子先生のマンションに向かおうとしたところで、突然裕翔に手を掴まれた。
「どうしたの?」
「やっぱり千佳子先生のところに行くにはまだ早いかなって思って。そこのベンチで時間潰していかない?」
裕翔は千佳子先生のマンションの隣にある、小さな公園を指差した。遊具が滑り台とブランコと砂場しかない公園だが、ベンチはたくさんあるため、昼夜問わず大人の利用者が多い。
腕時計を見ると、料理教室開始の時間まで四十分ある。確かに今行っては、千佳子先生も困るに違いない。
茉莉花は頷くと、二人は公園に向かって歩いて行く。園内の一番奥のベンチに腰を下ろした裕翔の隣に、茉莉花も静かに座った。
周りを見渡せば、向かい側に中年の男性が座っている以外、人の姿はない。
その時だった。裕翔が突然茉莉花に向かって頭を下げたのだ。
「西園さん、ごめん!」
「えっ、何が?」
戸惑いを隠せない茉莉花を、裕翔は真っ直ぐに見つめる。
「実は西園さんと二人きりで話したくて、わざと会社を早く出たんだ」
「話って……?」
緊張で喉がカラカラになっていく。良い話か悪い話か予想が出来ず、茉莉花の心臓が早鐘のように打ち始める。
「先週の千佳子先生の言葉って覚えてる? 俺、あれからずっとあの言葉について考えてたんだ」
「うん、もちろん覚えてる。私も考えていたから……」
「俺ね、元彼女の時は、自分にないキラキラ感に惹かれたんだよね。でもよく考えてみたら、この先一生キラキラはちょっと疲れるかなって。それよりも、好きなことを共有出来る方がいいなって思ったんだ」
「私自身も元彼の積極性に惹かれたから、ちょっとわかる。でも別れる時、風見くんと同じことを言ってた。好きなことを共通したいって……。」
正樹に最後の日に言われた言葉の意味が、今ならよくわかる気がしていた。
あのまま正樹と一緒にいたら、いつか茉莉花の中の不満がや不安が爆発していただろう。好きという気持ちだけで共に歩いて行くことは出来ないのだと気付いた。