知らない明日が来たとしても
 
 
「A社の件ですよ、さっきネットニュースになってたやつですよぉ」
「A社? ごめんまだ見てない。どんなニュース?」
「不倫ですよ! ふーりーん!」
 
 
 その二文字に一瞬で体が凍り付く。
 才佳の動揺を知る由もなく、後輩は携帯の画面でその記事を見せながら説明を続ける。
 競合他社であるA社で最近発売されたビール。
 そのCMに起用されている若手女優とベンチャー企業社長との不倫報道だった。
 週刊誌の記者が女優を直撃したが、相手が既婚者だと知らなかったとその場で泣き崩れたらしい。
 隠し撮りされた二人の写真を後輩がスワイプして何枚も見せてくるが、耐えきれなくなって才佳は視線をそらす。
 
 
「いやーA社は大打撃だよなぁ。あんなCMバンバン打ってたんじゃ売上にも響くでしょ」
「うちも気を付けた方がいいね。起用する前にそこらへんちゃんと調べらんないのかな」
「だからそれもですけど! 私がありえないって言ってるのは!」
 
 
 前に座るメンバーがそれぞれのんびりとコメントを残す中、後輩が噛みつくように再び声を荒げた。
 
 
「結婚してるの知らなかったなんて絶対嘘ですよね!?」
 
 
 まるで自分が責め立てられているかのようだった。
 写真の中で手を繋いでいた二人が、才佳と崇人の姿に重なっていく。
 
 
「何年も付き合ってて分かんないはずなくないですか!? 被害者ぶってるだけですよ、こんなの!」
「気付かなかったは確かに無理あるよなぁ。本当なら相当頭がお花畑だったとか」
「まぁ知らないふりしといた方が仕事に影響出にくいって思ったんじゃない?」
「どんな事情だって不倫は不倫。人として最低ですよ」
 
 
 目の前にいるのに、周りの会話がやけに遠く感じた。
 それほどアルコールを摂取していないのに、急激に喉元まで気持ち悪さが込み上がってくる。
  
 
「……ごめん私、ちょっと外の空気吸ってくるね」
 
 
 大丈夫ですかぁ?と心配する後輩の声を遮るように、才佳は立ち上がって店の外へと出た。
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