知らない明日が来たとしても
 金曜の夜とあって飲食店が並ぶ通りは人も多く、空気が綺麗とは言えないが、それでも数回深呼吸すると気分が和らいだ。
 通りを一周して気持ちを落ち着かせてからお店に戻ろう、そうすればきっといつも通りに振舞える。
 そう自分に言い聞かせて歩き始めた時、後ろからこちらを追ってくる気配がした。
 
 
「才佳!」
 
 
 振り向くと焦ったような顔を浮かべた暁が立っていた。

 
「暁……」
「どこ行くんだよ。急に出て行って」
「……ごめん、飲みすぎちゃったみたいで。ちょっと風に当たってから戻るね。みんなにもそう言っておいて」
 
 
 笑いながらそう告げて、再び歩き出す。
 今は誰ともうまく話せる自信が無かった。
 一秒でもその場から早く立ち去りたくて足早になりかけた時、肩を掴まれ強引に後ろを向かされた。
 
 
「なんだよその顔……全然笑えてない」
「そんなことないって」
「やっぱり最近変だよお前。何があった?」
「……」
「……俺にも言えないことなのか?」
「……暁にだって、話せないこともあるんだよ」
 
 
 酷いことを言っている自覚があったから、顔も見ることが出来なかった。
 肩の手を振り払うように強引に歩き出し、名前を呼ぶ声から逃げるように人混みに紛れる。

 一体何をしているんだろう、と一歩踏み出すたびに心が重くなっていく。
 ただ心配してくれているのに、八つ当たりのようなことをしてしまった。
 全て打ち明けて自分は楽になれたとしても、応援してくれていた暁は悲しむだろう。
 悲しむだけじゃない。後輩から言われたように、気付かないわけがないと責めるのかもしれない。
 人として最低だと、失望されるのが怖い。
 そうやって大事な相手にさえ疑心暗鬼になってしまう自分のことも、どんどん嫌いになっていく。
 
 飲食店街をようやく抜けると、大通りに出た。
 人の数も少なくなって随分歩きやすい。
 頭を冷やしてお店に戻って、暁にちゃんと謝ろう。
 溜息を吐きながらそう思った時、前方にタクシーが一台停車した。
 そばにあるイタリアンの店から家族連れが出てきて、運転手がそれを出迎えている。
 品のあるワンピースを着た女性と、それとリンクさせたような可愛らしい服装の女の子。そして二人をエスコートするようにゆったりと歩く優しそうな男性の姿。
 突然飛びついてきた女の子を男性が抱き上げ、それを女性が笑いながら見守っている。
 絵に描いたようなお似合いの家族だった。
 そう思って穏やかな気持ちになったのは一瞬で、父親らしい男性の顔を見た途端、才佳はその場で立ちすくんだ。
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