知らない明日が来たとしても
  
 
「どうしてあんな人好きになったんだろ」

 
 電話を終えた時、初めから別に愛されているわけではなかったとようやく分かった。
 崇人は恋愛ごっこを楽しんでいるだけで、才佳にその気がないと分かると興味を失い、さっさと身を引いたのだろう。
 二人で過ごした日々なんてすぐに忘れて、何事もなかったかのようにこれからも家族と幸せに生きていく。
 それで良い。どんな未来より、そうなることが正しい。そう思うのに。
 
 
「全部間違いだった……最初から出会わなきゃよかった……」

 
 声が詰まる。これが本音なんだと言い聞かせる。
 込み上げてくるものを必死で押さえつけた瞬間、頭の上にふわりとした何かが触れた。

 
「……いいんだよ、そんなに否定しなくて」

 
 大きくてあたたかな掌が、髪をそっと撫でる。

 
「うまくいかなくなっても、その時大事だった気持ちまで駄目なものにしなくていい」

 
 暁と視線が交わった瞬間、彼は優しく微笑んだ。
 
 
「頑張ったな」
「……っ、……」
 
 
 視界が一気に潤み、瞳の淵で堪えていた涙がついに溢れた。
 頬を濡らしていくそれを手で拭いながら、言い訳をしようと口を開いても、そこからは嗚咽が漏れるばかりだった。
 暁の手が才佳を支えるように肩の方へと回り、耐え切れず顔を彼の体へと寄せる。

 
「……ひどい人だって、嫌いにならなきゃって、分かってた、でも……」
「……うん」
「そのたびに、大好きだったことしか思い出せなくなるの……」

 
 初めて本気で好きになった人だった。
 裏切られていたと知ってしまっても、過ごした日々の輝きだけはどうやっても消せなかった。
 そんな矛盾した感情を持ってしまう自分が何よりも惨めで、許せなかった。
 途切れ途切れになりながら、才佳は溜め込んでいた思いを言葉に変えていく。暁はその全てを受け止めるように震える肩をそっと叩きながら、最後まで静かに耳を傾けていた。
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