知らない明日が来たとしても
 涙がようやく落ち着いた頃、才佳はゆっくりと暁から顔を離す。
 子供のように泣きじゃくってしまったことが居たたまれずに、俯きながら呟いた。

 
「ごめんシャツ……濡らしちゃった」
「いいよ別に。――それより、こっち向いて」

 
 その声に視線を上げる。
 才佳の眦に残る涙を指で丁寧に拭いながら、暁は言った。

 
「……”すぐ嫌いになれるくらいなら、こんなに好きになってない”って、才佳が言っていたこと、確かにその通りだなって思ったんだ。きっとそれは俺も同じだから」
 
 
 穏やかな眼差しがこちらを見下ろしていた。
 虹彩の色までよく分かるほど、今二人は近くにいる。
 
  
「だからすぐには無理でも、ゆっくりでいい、俺のこと見てもらえるように頑張るよ。……やっぱり誰かじゃなくて、俺が才佳を幸せにしたい」

 
 暁の言葉、口調、瞳の中に帯びた熱。
 全てからうぬぼれてしまいそうなほどの思いが伝わってきて、心臓がとくとくと高鳴り出す。
 
 
 「これからも好きでいさせて」

 
 そう言われた時、何も戸惑いはなかった。
 自然に頷くと、ありがとう、と暁がもう一度才佳を抱き寄せた。
 その瞬間、額に柔らかな唇のようなものが触れたような気がしたのは、ただの気のせいだろうか。
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