知らない明日が来たとしても
 毎月二回目の金曜日は、退勤後に新幹線に乗って崇人の家に行き、日曜日まで一緒に過ごすことが二人の日常になっていた。
 先月もいつもと同じように崇人と会い、帰りたくないと思いながら最終日の夜を過ごしていた。
 『将来のことをちゃんと話し合っていこう』
 作ってくれた夕飯を食べている時、崇人はそう切り出した。
 才佳の両親にきちんと挨拶がしたいと真っ直ぐ目を見て言われた時、付き合い始めてから一番心が満たされたような気さえした。
 
 帰る間際、準備をしようと立ち上がった時、ソファと壁の隙間に何かが落ちていることに気が付いた。
 何気なく拾い上げると、レストランで記念写真を撮ってもらった時によく渡されるフォトカードだった。
 こんなお店いつ行ったっけ。店名のロゴを見ながら軽い気持ちで開けた時、自分の目を疑った。
 高級感のあるレストランの窓際で撮影された写真。
 崇人の隣で微笑んでいるのは才佳ではなく、見知らぬ女性と小学校に上がる前くらいの女の子だった。
 三人の真ん中に置かれたケーキに『結婚記念日』の文字が書かれてあるのを見て、血の気がどんどんと引いていく。
 何かの間違いだと思った。
 崇人に確認すれば、きっとすぐに納得の出来る答えがもらえるはずだ。
 
 しかし才佳が尋ねた時、彼は言い訳もせずに認めた。
 才佳と出会う前、本社からこのエリアの支社へ出向になった時に結婚し、それから子供が産まれたこと。
 家族は都内に住み続けていて、ずっと単身赴任をしているということ。
 いつか才佳に言わなければと思いながら、言い出せずに付き合い続けてしまったこと。
 そう話す間崇人は妙に冷静で、まるでこの日が来ることを望んでいたかのように落ち着いていた。
 
 謝り続ける崇人を前に、才佳は最後まで何も言うことが出来なかった。
 それからどうやって駅に向かい、家まで帰ってきたのかもあまり覚えていない。
 何度も崇人から連絡が来たが、返事をすることは出来なかった。
 逃げ続けても仕方がないことは分かっていても、とにかく現実に向き合いたくなくて仕事に没頭した。
 この数年間大事に積み上げてきた宝物のような思い出を、一気に崩してしまう勇気がどうしても持てなかった。
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