シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
3.溢れる想い
 二週間後のシェアオフィス。休憩しようとカフェスペースへ向かうと、バリスタの奈美ちゃんがニヤニヤ笑いで私を迎えた。

「ちょっと、何笑ってんの?」

「咲希ちゃんさぁ、最近、あのイケメンさんと仲良いよね〜」

 意味深な笑みを顔に浮かべたまま、「いつものカフェモカにする?」と聞いてくる。全く、目ざといんだから。

「別に、たまに一緒にランチするだけの仲だよ。今日はカフェモカじゃなくて、期間限定のほうじ茶ラテにしようかな」

 努めてサラッと答えたつもりが、奈美ちゃんは目を丸くする。

「咲希ちゃん、変わったよね。勿論、良い方向にだけど」

「えっ、そうかな?」

 私をまじまじと見つめる奈美ちゃん。

「服やメイクが女性らしくなったもん。雰囲気も柔らかくなったし。それに、ここのカフェでも色んなメニューを頼んでるよね」

「あ〜、確かに。理恵さんとの縁が切れたら、新しい気持ちになれたんだよね」

 斉木さんが助けてくれた日の翌日。私は理恵さんと共にクライアントへデザインのプレゼンをした。
 すると、理恵さんにやり直しを命じられたはずのデザインは大好評。スケジュール通りに納品できそうだ。
 そして私は、理恵さんからの仕事の発注を全て断った。

「本当にいいのかしら? 咲希ちゃん、生活が苦しくなるんじゃないの?」

 強い調子でそう言う理恵さん。以前の私なら、迷ってしまったかもしれない。

「はい、構いません」

 でも、今の私はハッキリと答えられる。理恵さんは渋々ながら了承して、彼女との縁を切ることができた。
 仕事は減るけれど、自分で新しく獲得すればいい。上手くいかなくても、その時はその時。
 そう思えるのは、斉木さんのおかげだ。

『工藤さんは仕事に真剣に取り組み、その成果はデザインに表れている。だから、自信を持て』

 彼の言葉が私を変えてくれた。
 私も何か、彼のためにできることがあれば良いのだけど……。
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