シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
 数日後。今日は斉木さんとランチの約束をしている。

「斉木さん、まだ来てないな……」

 シェアオフィスのエントランスで待ち合わせなんだけど、斉木さんは珍しく遅れている。
 メッセージを送っても既読にならないし、仕事が忙しいのかも。
 ちょっと様子を見に行ってみようかな。


 オフィスエリアに入ると、斉木さんの勤める会社のドアが開き、中から三人の男性社員が出てくるのが見えた。
 あの人たちに、斉木さんが今仕事中かどうか聞いてみよう。
 そう思っていたら、

「全く、斉木は相変わらず態度悪いな」

 彼らの内の一人がそんなことを言い出したので、私はぎょっとした。
 他の二人も斉木さんの悪口に乗じる。

「あいつ、客には媚売るくせに、俺らには厳しいよな」

「売上のことしか考えてないんだろ」

「いくら仕事ができても、人としてなってないな」

「むしろ、仕事ができて顔も良いからって調子に乗ってる」

 三人の悪口が盛り上がるにつれて、カーッと怒りの感情が込み上げてきた。
 斉木さんと同じ職場で働いてるのなら、彼の仕事ぶりを見ているのなら、そんなことは言えないはずなのに。
 怒りが頂点に達した私は、彼らの元へずかずかと歩み寄った。

「あの!」

「……はい?」

 突然、見知らぬ女が怒りを露わにやって来たからだろう、彼らは戸惑いの表情を浮かべている。
 それに構わず、私は口を開いた。

「斉木さんは媚なんて売ってません! いつだって冷静で、お客さんとも良い関係を築いて……。厳しく見えるのは、それだけ真剣に仕事と向き合っているからで、本当は優しい人なんです。だから、斉木さんの悪口を言わないでください!」

 斉木さんに対する言葉が次々と溢れ出す。
 三人は気まずそうな顔で黙り込んでいたが、やがてハッと目を見開いて私の背後を見つめた。どうしたんだろう?

「工藤さん」

 すると、静かな声で名前を呼ばれ、私は驚いて身体をビクッと震わせた。
< 19 / 24 >

この作品をシェア

pagetop