シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
「どうして、君が泣くんだ」

 斉木さんは焦ったようにスラックスのポケットからハンカチを取り出すと、私の涙をそっと拭ってくれた。

「……ごめんなさい」

「謝る必要もない。俺は元々、組織に馴染めない性格なんだ。自分の意見に正直なあまり、相手を不快にさせてばかりだ」

「そんな……」

「それでも、別に何とも思わなかった。以前の俺なら」

 斉木さんの口調が優しくなる。思わず彼の顔を見ると、穏やかな笑みを浮かべていた。

「工藤さんと初めて会った日……まさか、初対面の相手に指摘をして、礼を言われるとは思わなかった。だから気になって、後日、自分から声を掛けたんだ」

「え……?」

 初めてランチに行った時のこと、あれは偶然じゃなかったんだ。
 私だけが、斉木さんを意識しているんだとばかり思っていたのに。

「工藤さんは真面目で懸命で、一緒にいると楽しくてリラックスできる。君だけは、俺のせいで嫌な気持ちにさせたくなかった」

「斉木さん……」

「工藤さんに出会えて、俺は変われたんだ。今の俺は、君がくれた言葉を信じたい」

 斉木さんの気持ちが、私の心の奥深くに染み込んでいく。

「嬉しいです。さっき、あの人たちに言ったことは、全部私の本音ですからね」

 そう言ってから、何だか急に恥ずかしくなる。だって、本人に聞かれてるだなんて、思いもしなかったから……。
 そんな私の恥じらいは、すぐに驚きへと変わった。
 突然、斉木さんが私を抱き締めたからだ。
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