シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
「!」

 彼のがっしりとした身体から、じんわりと温もりを感じる。
 私は息が止まるんじゃないかというくらいにドキドキして、何も言えなくなった。

「ありがとう」

 耳許(みみもと)で囁かれる。斉木さんがどんな顔をしているかは分からないけれど、今までで一番柔らかな声音だった。
 私の耳に、彼の息が掛かる。

「俺は咲希が好きだ」

 初めて名前を呼ばれ、打ち明けられた彼の気持ちに、私は完全に思考が停止してしまった。
 い、いけない! 私もちゃんと気持ちを伝えないと!

「わ、わわっ、私、も……」

 それなのに、緊張のあまり上手く声が出てこない。私って、まだまだ冴えない女なのよね……。
 だけど、斉木さんは察してくれたみたい。そっと私の身体を離すと、真剣な瞳で私の顔を覗き込んだ。

「これからは、ずっと俺の傍に居てくれないか」

 嬉しくて、夢みたいで、私の瞳に涙が(にじ)む。

「はい!」

 今度は笑顔で、ハッキリと返事ができた。
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