未来へ繋ぐ、禁断のタイムスリップ

決意の言葉

月明かりに照らされた庭。
宗一郎と向き合う麗は、静かに、しかし確かな声で告げた。

「父上。九条が力に縛られる限り、誰も幸せにはなれない。
過去の“リオ”を利用しようとしたその執着が、何度も悲劇を繰り返してきた。
……だから、もう終わりにしませんか」

宗一郎の眉がわずかに動く。
だがすぐに、冷笑を浮かべた。

「終わりに? お前がたかが女一人に惑わされて、それで九条の宿命を変えられると思うのか」

その言葉に、莉緒は震える手をぎゅっと握った。
しかし逃げなかった。
麗の隣に立ち、真っ直ぐに宗一郎を見返す。

「私は……ただの“女一人”じゃありません」
莉緒の声は小さかったが、澄んでいた。
「この時代に来て、麗様と出会って……怖いことも、悲しいこともあったけど、それ以上に大切なものを知りました。
私は、麗様と一緒に生きていきたい。その気持ちは、何よりも強いです」

宗一郎の瞳が一瞬、揺らいだ。
月光が映るその眼差しには、怒りとも諦めともつかぬ影が走る。

麗はさらに踏み込む。
「父上、俺はもう従わない。権力も財もいらない。莉緒を守り抜くことこそ、俺の唯一の願いだ」

その言葉は、重く深く響いた。
まるで、長く続いた呪縛を断ち切るように。

宗一郎はしばし沈黙し、やがて低く息を吐いた。
「……愚か者だな。だが……」

そこで言葉を切り、鋭い視線を二人に投げた。
「その愚かさに、かつての自分を見た気がする。
麗、お前がそこまで言うなら……もはや私が口を挟む余地はない」

その声音には、ほんのわずかだが疲れの色が混じっていた。

「麗…今から話すこと忘れないでくれ」

――「リオ」と呼ばれる者が時を越えて現れる時、九条の血脈は試される。
 偽物が幾度も訪れ、やがて“本物”が現れる。
 真実のリオこそ、九条の運命を終わらせる存在である。

宗一郎が若い頃に愛したのは、透き通るような微笑みを持つ少女だった

その名はリオ――もちろん、今目の前にいる莉緒とは別人だ。

彼女は明るく、無邪気で、宗一郎の孤独を癒してくれた。
しかし、運命は残酷であった。
彼女はある日、理由も告げずに姿を消した。
残されたのは、深い喪失感と「なぜ救えなかったのか」という後悔だけだった。

さらに時を経ると、幾人もの“リオ”が現れた。
•ある者は、病に倒れ命を落とす。
•ある者は、突如として時の流れに吸い戻され、二度と戻らなかった。
•またある者は、まるで偶然の影のように、麗の前に現れるも消えていった。

しかし、彼女たちは皆、“偽物”でしかなかった。
宗一郎の心に残るのは、繰り返される失望と痛みだけ。
「この永遠の繰り返しは、誰も救えない」と、心を閉ざしたのも無理はなかった。

そして、ついに現れた本物――柴田莉緒。
彼女は、麗の前に現れた瞬間から、運命の証を放っていた。
偽のリオたちとは違い、決して消えることはない。
微笑み、涙、そして愛する気持ち。すべてが、かつて宗一郎が失ったものの完璧な再現であり、さらにそれを超えていた。

麗は莉緒を見つめ、強く握る。
「今度こそ終わらせる。偽りも、繰り返される悲劇も。俺が守るのは、お前だけだ」

莉緒の瞳には、自然と涙があふれる。
過去に何度も失われた命や愛の痛みを思うと、胸が熱くなる。
でも同時に、ここにいる麗の温もりを感じ、未来への希望が胸に広がった。

宗一郎もまた、遠くからその二人を見守る。
「やっと……これで終わりか……」
かつて愛した偽のリオたちに別れを告げながら、本物のリオが未来を切り拓く姿に、深い安堵と微かな誇りを感じた。

歴史は繰り返されることなく、偽りの悲劇はここで終わった。
そして、麗と莉緒だけの愛の物語が、新たに始まる――永遠に。

俊樹が宗一郎の側に来た。
「旦那様…」
宗一郎は、俊樹の肩に手を置く。

やがて宗一郎と俊樹の姿は闇に溶け、庭には麗と莉緒だけが残った。

麗はそっと莉緒を抱き寄せる。
「……大丈夫だ。これで本当に終わった」

莉緒は胸の奥の不安が、ようやく静まっていくのを感じた。
ただ彼の腕の中で、目を閉じた。

莉緒は、ある決心をしていた。



< 33 / 36 >

この作品をシェア

pagetop