街の優しい弁護士の偽装恋人……のはずが、本命彼女になりました!
「巻き込んだのはこちらなので」
「でも……」
 戸惑う遼子に、彼はさらに言う。

「私を誠意のない人間にさせないでいただけるとありがたい」
 そこまで言われると、遼子には断る理由を見つけられなかった。
 名刺を受け取り、驚いた。弁護士、逸水昂大(はやみ こうだい)と書いてある。

「私も名刺をお渡ししておきます」
 慌ててバッグを探り、猫の絵がついた名刺入れから一枚取り出し、彼に渡す。彼はそれを見て眉を上げた。
「……すごいですね。出版社の編集でいらっしゃる」
「いえ、弁護士のほうがすごいです」
 遼子が答えると、彼はふっと笑った。硬質な冷たい金属のように見えるのに、笑みに目が細まると急に空気がやわらかくなる。

 あ、笑うと優しい感じになるんだ。
 遼子の胸に小さなときめきが流れ星のように走る。
「では、連絡をお待ちしてます」
 彼はそう言ってさりげなく遼子の手からレシートを奪い、レジに向かう。

「待ってください」
 慌てて追いかけるが、そのときには彼は支払いを終えていた。
「すみません、この前も出していただいて」
「ご不快だったでしょう。せめてものお詫びです。ではまた」
 一方的に言って、彼は背を向けて歩き出す。

 それ以上は追いかけられず、遼子はふうっと息を吐いた。
 手の中の名刺が、妙に熱く感じてたまらなかった。
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