街の優しい弁護士の偽装恋人……のはずが、本命彼女になりました!
「もしかして、少し早いですか?」
「大丈夫です」
「ご無理なさらず。私はどうも気が利かなくて」
 鉄面皮の眉が困ったように下がり、それだけてなんだか親しみがわいた。

「では、遠慮なく。少しゆっくりにしていただけるとありがたいです」
「では、そのように」
 宣言通りにゆっくりと歩いてくれて、遼子の彼への好感度は上がる一方だ。

 到着した喫茶店は七十年代のようなレトロさがあった。薄暗い店内にステンドグラス風の傘のオレンジの照明。赤い重々しいソファに木のテーブル。幾何学模様の床。全体的にヨーロピアンな雰囲気が漂っている。

 お値段は、と遼子は緊張した。彼は迷わずブランドショップに行くくらいだから、高い店かもしれない。
 おそるおそるメニューを見て、ほっと息をついた。庶民的な価格だ。これならちゃんと彼に奢れる。
 思ってから、少しもやっとした。こちらの懐を気遣われたのだろうか。

「この店、実は学生の頃に通ってたんですよ」
 彼の目が懐かしそうに細まり、遼子は意外に思った。
「この辺にお住まいで?」
「一時、大学に通うために住んでました。ここには友達と来ていたんです」
「へえ……」
 弁護士ということは法学部にいたのだろうか。頭のいい人たちが集まるとどんな話をするものだろう。

「久しぶりに来たいと思っていたのですが、なかなか来れなくて。一緒に来られて良かったです」
「お役に立てたようでなによりです」
 遼子が笑みを返すと、彼はふっと笑った。
 この笑い方。男前にしか許されないというのに、まったく。
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