街の優しい弁護士の偽装恋人……のはずが、本命彼女になりました!
 遼子はどきどきするのをひた隠しにして、届いたコーヒーを口に含む。
「おいし!」
「店長が産地にこだわって仕入れているそうです」
 そう言って彼もコーヒーを飲んだ。

「この前の女性ですが」
 言われて、遼子は彼を見た。
「最近請け負った依頼者の奥様なのですがね。少し怒らせてしまいまして」
「そうなんですね」

「詳しくは言えませんが……怒りをぶつけられるのはよくあることなんですよ」
「本で読んだことあります。本当にあるんですね」
 小説の中で弁護士が依頼者に怒鳴られたり暴力を振るわれたり、下手をすると殺されかけたり、そんなシーンを見かけたことがある。

「人の感情が昂るような場面に立ち会うことが多いので、仕方ありません」
 確かに弁護士に仕事を頼むなんて、よっぽどトラブルを抱えた場合になりそうだ。
 名刺を見る限りでは個人事務所で働いているようだし、ご近所トラブルを扱っているのだろうか。

「弁護士さんって思った以上に大変そう」
「そうですね。みんなが思うほどもうかりませんしね。企業法務で大企業を相手にしていれば別ですが」
 目が笑みに孤を描く。
「私はいわゆる街弁で、離婚や相続の問題、交通事故の示談など、いろいろ担当しています。やりがい搾取なんて言葉がありますが、弁護士はまったくその通りで……」
 言いかけて、彼ははっと口を閉ざす。

「すみません、つい」
「……大変なのはよくわかりました」
 遼子が苦笑すると、彼はごまかすようにコーヒーを口に運んだ。
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