不運を呼び寄せる私ですが、あなたに恋をしてもいいですか?
ようやく息をすることができ、

「大丈夫です」

そうなんとか答えた。

「大丈夫じゃないでしょう! 身体を強くぶつけたんじゃ?」

「え、あ、ちょっと」

「医務室で診てもらいましょう」

「え?」

「今から診てもらうんです」

「あ、でも……」

歩実は頭を上げ、男性の顔を窺った。

その瞬間、歩実の心臓が大きく跳ねる。同時に懐かしさのような感情がじわりと込み上げた。けれど、目の前にいる男性に会った記憶はない。

「私も一緒に行きますから」

「えっ? そ、そういうことではなくて、もうすぐ仕事も始まりますし」

「何か急ぎの仕事でも?」

「仕事は通常業務ですが……」

「だったら大丈夫。私が直属の上司に連絡しておきます。まずは自分の身体のことを心配しましょう」

こんがりと日焼けした端正な顔立ちに至近距離で見つめられ、歩実はドキッとする。

「は、はい……」

「お名前は? あっ、ネーム見せてもらいますね」

男性は歩実の返事も待たず、首にぶら下げていた社員証を手に取ると、一瞬目を見開いた。僅かな沈黙も漂う。

「あ、あのぅ……」

男性はハッとしたように笑顔を作り、スーツのポケットからスマホを取り出すと、どこかに電話をかけ始めた。

< 11 / 31 >

この作品をシェア

pagetop