不運を呼び寄せる私ですが、あなたに恋をしてもいいですか?
食事を終えホテルを出ると、心地よい風がふたりを包む。

「ごちそうさまでした。じょ」

常務と言ってしまう前に、言葉を飲み込む歩実。

「絢人でいいよ。今はプライベートだ」

察した絢人がすかさずフォローした。

「あ、絢人さん」

辿々しく名を呼ぶ歩実に満足げな表情でうんうんと頷く絢人。

「いいねぇ。なんかゾクっとした」

「えっ⁉︎」

「俺たち、今から恋人同士ってことでいいんだよな?」

「恋人……」

その響きに、歩実はぽーっと頬を赤らめた。

「よろしくな、歩実ちゃん」

「あ、あのっ」

「ん?」

「歩実、歩実って呼んでください。歩実ちゃんって言われると、まだ小学二年生だった私のような気がして……」

「わかった」

「お願いします」

「歩実」

色香のある声音が歩実を呼ぶ。

あの時のように胸がキューッとなった。これは確かに恋なのだと、改めて確信した歩実だった。


「せっかく恋人同士になったのに名残惜しいけど、家まで送るよ。明日も仕事だ。無理はさせられないから」

正直、がっかりしている自分がいる。けれど、大切にされていると嬉しく思う自分もいる。複雑な気持ちを抱えたまま、タクシーで自宅アパートまで送り届けてもらった。

アパートに到着し、タクシーを待たせたままエントランスまで一緒に着いてきた絢人が、ふと怪訝な顔をし、ぽつりと呟いた。

「ここはセキュリティが甘いな」

「えっ?」

「歩実、ここは会社からも遠いし、オートロックでもない。俺は心配だ」

「私、これまで何事もなく生活していましたよ」

絢人は大きく首を左右に振る。

「もし可能なら引っ越さないか?」

「えっ⁉︎ じゃあ、今からお部屋探ししなきゃ」

今度はブンブンと手を振った。

「俺のマンション、部屋が余ってるから歩実が良ければ一緒に住もう。あ、その前に内見だな」

「えっ? えーーーーーっ!」

「嫌か?」

「ちょ、ちょっと、えぇぇぇぇ!」

「その反応、可愛いねぇ。じゃあ、おやすみ」

絢人は歩実の額に優しいキスを落とすと、スッとその場を離れた。

歩実は呆然としながら絢人の後ろ姿を見送った。

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