不運を呼び寄せる私ですが、あなたに恋をしてもいいですか?
気がついた時には歩実は病院のベッドの上だった。両親が悲愴な顔で見つめている。

「歩実!」

病室のパイプ椅子に座っていた母親は勢いよく立ち上がり、涙を浮かべながらギュッと歩実の手を握りしめた。

「歩実、わかる?」

「お父さん、お母さん」

掠れた声で呼びかけると、母親は歩実の頬を包み込むように両手を添え、目に涙を浮かべた。そんな母親の肩を父親は優しく抱く。

「良かった、本当に良かった」

不妊治療の末授かった我が子だ。歩実が目覚めるまで生きた心地がしなかったであろうことは、充血した目を見れば一目瞭然だった。

「梶谷さん()のケンくんがいなかったらと思うと……」

ケンくんとは、近所に住む梶谷絹枝(かじたにきぬえ)という60代女性の孫だ。毎年夏休みに東京から泊まりがけでやって来る。歩実より7歳年上の中学二年生だ。

絹枝はというと、五年ほど前に歩実の住む田舎町に引っ越して来た。老後は思い出深いこの町で夫婦水入らずで暮らすはずだった。けれど、絹枝の夫は引越し予定の一年前に病気で亡くなってしまい、たった独りでこの町にやって来たのだ。ちょっとミステリアスな部分もあるが、品があり穏やかで優しい女性だ。歩実が回覧板を届けに行くと、いつも高級そうなお菓子やジュースを「おやつにどうぞ」と持たせてくれる。歩実にとっては祖母のような存在だ。

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