甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
彼の手は驚くほど丁寧で、まるで職人のようにリズミカルに動く。玉ねぎは均等な薄さに、にんじんは美しい細切りに。鍋から立ち上る湯気と、静かな調理の音が、キッチンを温かく満たしていた。
そして、最後に彼が小さな瓶から黄金色の液体を注いだ瞬間、ふわりと甘い香りがふわりと香る。
その香りは、私の心を一瞬で過去に引き戻した。
【みやび】の味醂。
私の家が代々守ってきた、唯一無二の味。祖母が「雅乃家の魂」と呼んだ、あの懐かしい香り。
どうして、ここに?
なぜ、彼が?
「……っ……」
驚きと混乱で、思わず一歩後ずさった。だが、その瞬間、床が小さくきしむ音を立てる。
「そこにいるのは誰だ」
低い声が、静まり返った空間を切り裂いた。
鋭い視線が私を捉え、心臓が凍りつく。見つかってしまった。
「……す、すみません。眠れなくて……その、つい……」
声が震え、言葉がうまく紡げない。まるで子供の頃、蔵でいたずらを見つかったときのような気分だ。