甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
「……覗き見とは趣味が悪いな」
声は冷たく、まるで私の存在を咎めるようだった。だが、ほんの少しだけ温かく感じた。
それでも、胸がちくりと痛み目を伏せる。すると、彼はふと視線を逸らして鍋をかき混ぜながら小さく呟いた。
「……まあ、いい。せっかくだ、味見するか」
意外な言葉に、目を丸くする。彼は無造作に小皿に煮物を盛りつけ、こちらに差し出した。照りの美しい野菜と魚の切り身が、食欲をそそる香りを漂わせている。
私は恐る恐る箸を手に取り、一口分を口に運んだ。
その瞬間、味が広がった。
出汁の深い旨みに、ほんのり甘い香りが重なる。味醂が、素材の味を引き立て懐かしい温もりを運んでくる。
それは、祖母がよく作ってくれた煮物を思い出す味だった。蔵で過ごした日々、家族との食卓、笑い声──すべてが一瞬で蘇り、胸の奥が熱くなる。
「……っ、美味しい。美味しいです」