甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
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夕食の時間、珍しく周寧が私と同じテーブルについた。
いつもは外で食事を済ませてしまう彼が、リビングのダイニングテーブルに座っている姿に、私は少し戸惑った。キッチンで用意した料理を並べながら、緊張で手が震える。
「味噌汁、美味いな。出汁に少し工夫をしたのか?」
彼の何気ない口調に、心臓が跳ねた。
「えっ、あ……はい。味醂をほんの少しだけ、加えてみました」
祖母のレシピを思い出しながら、【みやび】の味醂を数滴加えた味噌汁。ほんの小さな工夫だったが、彼が気づいてくれるとは思わなかった。
「……なるほど」
彼はわずかに目を細め、口元に微かな笑みを浮かべた。その仕草に、私の胸はまた熱くなる。
──この人のために、もっと美味しいものを作りたい。
そんな気持ちが、自然に芽生えていた。
あの夜、キッチンで彼が作ってくれた煮物の味を温もりを思い出した。あの温もりを、私も彼に届けたい。
【みやび】の味醂を通じて、ほんの少しでも彼の心に触れたい。そんな願いが、胸の奥で静かに膨らんでいく。
だが、同時に、怖さもあった。
彼の過去を知れば知るほど、彼の優しさに触れれば触れるほど、私は本当に彼の隣に立つ資格があるのだろうか?契約結婚という形で【みやび】を守った私に、彼の心を受け止める権利があるのだろうか。