甘やかな契約婚 〜大富豪の旦那様はみりん屋の娘を溺愛する〜
「紫月」
突然、彼が私の名前を呼んだ。初めて聞く、柔らかな声の響きに、箸を持つ手が止まる。
「……何、ですか?」
視線を上げると、彼の瞳が私をじっと見つめていた。いつもは鋭く、どこか冷たいその瞳に、今日はほんの少しの温かさが宿っているように見えた。
「お前が作る料理には、どこか懐かしい味がある。……母を思い出す」
その言葉に、胸が締めつけられた。
彼の母との記憶、【みやび】の味醂が結んだ絆。それが、今、私たちの間に小さな橋を架けているのかもしれない。
「……ありがとう、ございます」
小さな声で呟くのが精一杯だった。涙が滲みそうになり、慌てて目を伏せる。
彼はそれ以上何も言わず、静かに食事を続けた。だが、その沈黙は、いつもより少しだけ温かく感じられた。