長すぎた春に、別れを告げたら
定時に仕事を終えて、ビルを出たとき。

「萌歌!」

芝山治久(しばやまはるひさ)――一週間前に別れた彼氏に呼び止められた。

「治久、どうしてここに?」

驚いて目を丸くする。

幸い周囲に同じ会社の人の姿はなかった。

私は職場で自分から個人的な話はしない。そのため、彼氏と破局したことはまだ誰にも打ち明けていなかった。

「すぐそこでタクシーを待たせてる。一緒に来てくれ。萌歌と話したい」

治久は真剣な面持ちで私を見下ろした。

一重のシャープな目、薄い唇。あっさりとした顔は、一週間前に会ったときよりも無味無臭に思えた。

「私はもう治久と話すことはない」

私が別れを告げた日、治久は『わかった』とすんなり同意した。

付き合って八年、治久がもう私を好きじゃないのは気づいていた。ただ私といるのが楽だから、私と一緒にいることを。

だからマンションの合鍵を返し合って、お互いの荷物を片付けて、馴れ合いの関係を清算したのだ。

それなのに、今さらなんだというのだ。
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