長すぎた春に、別れを告げたら
「昨日お借りした傘を返しに」

「あ……」

相良さんが私の会社の近くにいたのは、わざわざ折り畳み傘を持ってきてくれたからだったのだ。

「おかげで濡れずに済みました。ありがとうございます」

別に返さなくてもよかったのに、とても律儀な人だ。

最寄り駅に向かいながら傘を受け取っていると、背後から強い視線を感じた。

たぶん治久が追ってきている。まだ私を疑っているのだろう。

「さっきの男性、しつこいですね」

相良さんも治久に気づいたようだ。

「元カレなんです。復縁を迫られていて……」

見苦しいところをさらしてしまい、いたたまれない気持ちになった。

「元カレが引き下がるまで、店に入って時間をつぶしますか? 傘のお礼におごります」

相良さんがそう申し出てくれた。

たしかに今ここで相良さんと解散したら、治久はまた突撃してきそうだ。

気を使わせて申し訳ないと思いつつ、半個室の洋風居酒屋に入る。さすがに中までは治久も追ってこなかった。

席につき、まずは飲み物を注文する。まさか『誰にも落ちない相良先生』とごはんを食べることになるとは。

「あ、えっと、私が何者なのかわからないですよね。私はA:ROOMの社員の浜名萌歌といいます」
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